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土曜日は絶対に「あめりかんくっきー」
土曜日の午前中の嘉手納。絶対に立ち寄ってほしい場所がある。
路地の路地。沖縄の方言で”すーじぐゎー”と言われる本当に住人しか通らないような小道に突如現れる青と白のストライプのテントに「あめりかんくっきー」の手書きの看板。
伺った日は、建物の屋上にたくさんの風船がくくりつけられていた。小さい子どものいるお宅なのかなと思ってみていたが、あめりかんくっきーのオープンを知らせる風船だった。
看板やテントはあるものの、完全に民家。きっとオープン時でないと何度もその民家の前を行ったり来たりしてしまうだろう。


土曜日の10時。週に1日しかオープンしないクッキー屋さん「あめりかんくっきー」。
クッキーはオートミール、チョコチップ、ココア、ピーナッツバターの4種類。名前のイメージを裏切らないビッグサイズ。
受け取ると思わず「重っ」っと口をついてしまう。
オーナーのハツ子さんは嘉手納町の出身。30年程、基地の中のパティスリーで従事し、パイやパンなどを作っていた。定年退職したら自分のお店を持ちたいと若い頃から考えていた。
「若い人たちによく話すよ。夢って叶うんだよ!って。」


あめりかんくっきーは2022年にオープンした。
長年の夢を70歳を超えて実現させたハツ子さん。
一人で出来る範囲で無理なくやること、一人で完結することがポリシー。
「90歳まではやりたいねー。」と目標を語る。
あめりかんくっきーを始めた頃は週2回、オープン日を設けていた。
注文が増えたことにより、体力面を考慮し、週1日のオープンへ。注文が重なってしまうことももちろんあるがうまく調整して無理なく丁寧にを心がけている。
「大変とかきついって思う気持ちの方が多くなったら意味ないさーね。だから、無理しない方がいいんじゃないって娘にも言われて、週1に変更したよ。断る練習もしてるよ。」
「注文してくれるのは全て対応したいって言ってるけど、辛くなったら意味なくない?長く続けたいでしょ?って話して…。」と娘のちかさん。
この日は取材の時間を頂くため、店番としてお店に来てくれていたちかさん。
「はじめは1つ100円で販売していたんですけど、食材も箱も袋も全部値上がりしてるから、値上げしたら?って言っても絶対うんって言わなくて。やっとだね。」とお母さんのハツ子さんに同意を求める。
このやり取りからもハツ子さんの人が好きという気持ちが優先してこの仕事に取り組んでいることが伺える。


始まりはアパートの一室から
20年程前、たまに焼いて配っていたクッキー。美味しいから売れるよと15年ほど前、沖縄市の一室で友人たちへの販売から始まった。当時は店名もない。だけど周りの人たちに愛されるクッキーだった。
地域のイベントや学校のイベントなどに出してみたり、お孫さんの保育園では「にこばばクッキー」と呼ばれ、子どもたちやその親御さんたちに喜ばれていた。
販売分に余りが出ると周りに配って、それが宣伝代わりになっていたと笑う。
オープン時、娘のちかさんが作ってくれたチラシを配るくらいで「ゆるーく始めて。残ったものは目の前の工事していたにーにー達に三時茶(さんじじゃー:沖縄の方言で3時のおやつのこと)にしてねーってあげたりして。」「近所の子どもにもあげたりして…そんなときもあったよー」とハツ子さん。
今では閉店時間を待たずに完売してしまうことがほとんどだ。


注文が入った日の前日や金曜日には朝から仕込みを始める。生地を寝かせ、成形し、オーブンに入れる。焼き上がったクッキーを冷ましている間に昼食をとり、その後に袋詰め。そしてシールを貼って…。「1日がかりよー。袋詰めが一番難儀。だけど、明日お店開けたらいろんな人と話せる楽しみがあるって思いながらやってるよ。」とハツ子さん。
「ラジオ聞いて爆笑してるときとかあって楽しそうだけどね。」と娘のちかさん。
人に向かうための作業もラジオとともに楽しんでいる様子。
「焼いてるとき、焼き上がったあとはこのあたりが甘いにおいがしてて、子どもがクッキー頂戴って来ることがあるよ。」「明日、お母さん連れて来てねって言うんだけどさ。子どもって面白いよね。においするからあると思って来るわけさ。」と笑う。
あめりかんくっきーという店名を掲げたときに思い描いていた通りのお店になっている。


「こういうのが流行ってるんだねーとか、今の子はこういうのが好きなんだねーとか。娘に行ってみる?って誘われてよく一緒に行くよ」と、時間のあるときにはちかさんと新しいお店を見に行ったりすることが好きだそうで情報収集も欠かさない。
リサーチしたうえで、考えられた店構え。「流行りもいいけど、昔っぽい方がみんなの来やすいでしょ?」と話してくれた。
お店の看板は全て手作り。娘さん、お孫さんにも手伝ってもらっているそうだ。
誰もが近寄りやすく。すーじぐゎーを楽しめるように
あめりかんくっきー。「誰でも読めるし、近寄りやすいでしょう」と平仮名表記にし、青と白のストライプのテントもハードルを下げるために選んだ。
意図した通りにいろいろな方が来店してくれる。
「客層としては懐かしい味だといって年配の方が多いかなー。あとは意外なことに男性一人の人が多い。誰かにあげるとかではなく、自分用にって言ってるのもかわいいよね。嘉手納での工事が終わって現場が遠くなってって言いながら金武から来てくれている子もいるよ。」
その目的はきっとクッキーだけじゃない。



味の記憶が引き寄せる。懐かしい記憶と人の交わり
あめりかんくっきーのクッキーは歓送迎会など学校のPTAなどからの問い合わせがあったり、清明祭やお盆など沖縄の年中行事の際に注文が入ることが多い。
差し入れでもらって美味しくて買いに来てくれる人も少なくない。また食べたいと思わせる魅力あるクッキー。
ある日、宜野湾の病院で差し入れでもらったクッキーの味に懐かしさを覚えたというお客様がやってきた。
人にもらって美味しかった味の記憶。「沖縄市でやってたときに誰かからもらったんだろうね。食べたときにこれはあの時のクッキーじゃないかって思って、調べて買いに来たんだって。すごいよね。」と話してくれたハツ子さん。
探してきてくれたのも凄いけど、忘れられない味になってることが凄い。
また、にこばばクッキーとして食べていた保育園生が中学2年生になってお店に来てくれたこともあったり、店舗を出したらしいと噂を聞きつけた、ちかさんのベビーマッサージの教室に通っていた頃、おやつとして食べていた方々がまたあの味に会えると遠方からでも来てくれたり…。
店舗としての歴史を遥かに超えるお客様の味の記憶としての長い歴史。
ここにこれば作り手であるハツ子さんと懐かしい味に会える。店舗が出来てどれだけの人たちが喜んでいるだろうか…容易に想像できる。
材料のほとんどが輸入品で、世界情勢の影響で食材が手に入りにくくなったり、値上げの波が押し寄せたりするなかで、譲れないもの。
「絶対に味は変えない」という信念。
今回お話を伺う中で、一番力強く、印象に残った言葉。歴史があるからこそ、待っている人たちがいるからこその想い。
これからもこの場所で、嬉しい再会と新たな出会いが店舗としての歴史を刻んでいく。